あのひとは蜘蛛を潰せない 感想
登場人物は不器用な人たち。
...でも、生きるのに不器用じゃない人ってどれくらいいるんだろう。
そう考えると、登場人物はみな「普通の人」。
大きく大きく括ると恋愛小説になるのかもしれないけれど、主人公の根本にあるのは母親との関係。
昨今「毒親」と言う言葉を聞く機会が多くなったけれど、これに出てくる母親は「毒親」とは言い切れない。
でも過干渉で、母親のたくさんの言葉が娘を縛り付ける。(それを毒親というの...か?)
とはいえ、母親に同情する部分もある。
人はみな、何かしらを背負って生きているということだと思う。
物語は大した事件も起こらない日常が淡々と続く。だけどそれがリアルでその時々の主人公の行動や言葉がひりひりする。
「かわいそう」はとても厄介だ。
「かわいそう」はずるい
「かわいそう」は縛り付け
「かわいそう」はラクチンで
「かわいそう」は傷つける。
そして...人は誰かを「かわいそう」と思うことで、自分を1つ上に置くのではないかとも思う。
この物語では「さざんか」が随所に出てくるのだけれど、よく似た花で椿がある。
さざんかと椿の違いはいくつかあるが、椿は花ごとボトッと落ち、さざんかはハラハラと花弁が散る。
そして椿は香りが少なく、さざんかは強い香りがある。
2つの花の違いを感じながら...だから椿ではなく、さざんかなのかなと思った。
私を含め母親に対して、言葉にしにくい感情を抱いている娘というのは多いのではないかと思う。
決して毒親ではない母に対する、言葉にしがたい感情。
だからこういう母と娘を描いた本を読むと救われる部分もある。
でも同時に自分が「母親」になってからは、少し怖くなる。
自分も子を想うあまり、知らず知らずに子を縛っていたらどうしよう...と。
彩瀬まるさんは、私の好きな作家さんの1人なのだけれど、とにかく表現が豊かです。
人間の心の闇や、ドロドロで生臭いものを、醜く生々しく...とても美しく描きます。
そして、私が誰にも見せずに心の奥にそっとしまっている「自分を形成している大切な何か」をズドンとピンポイントで突いてくる...そんな作家さんです。
椎名林檎さんの帯、巻末の山本文緒さんの解説も作品を彩っている一部のようで、とてもよかったです。
(#彩瀬まる)
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