「戦場から風俗まで」がテーマのフリーライター、小野一光さんが東日本大震災の被災地の風俗嬢を五年にわたり取材した、渾身のノンフィクション。
震災を記録したノンフィクションはたくさんあり、それらを「表の記録」とすると...この本は「裏の記録」なのかもしれません。
震災風俗嬢 感想
震災の当日、九州にいた著者は震災を知ってすぐに被災地に向かった。そこで被災地の惨状を何度も目にする。
「この惨状を記録するカメラマンや記者は、自分以外にもたくさんいる。しかし、被災地の風俗を記録できるのは自分しかいない」
という信念の元、著者は取材を続けていくのだが...「こんな時に風俗の取材をするなんて、不謹慎なのではないか」と何度も悩む。
その思いはこちらにも伝わり、読んでいる私も同じように思わされる。
でも読み進めていくことで、風俗嬢と呼ばれる彼女たちが、被災地で逞しく生きていることを知る。
そして、その彼女たちの多くも被災者だった。
読み始める前にタイトルから勝手に想像し、震災によって職を失った女性たちが、やむにやまれぬ理由で風俗で働き始めるという内容だったら少し嫌だなと思っていた。
私は風俗産業が必要なものなのか、不必要なものなのか、善なのか悪なのか、肯定すべきなのか、否定すべきものなのか...そんなことは正直分からない。
だけど、やりたくない人が無理やりにさせられたり、知的ボーダーなどの問題を抱えた女の子たちが利用されたりすることは、悪だと思う。
だから、この本がそういった類のものではなかったことで、余計な感情を気にすることなく読み進めることが出来た。
自身も被災して、住んでいた家が流されたり、両親を亡くしながらも風俗の仕事に復帰する...そんな彼女たちを「ありえない、信じられない」と言ってしまうことは何よりも簡単だ。
でもそんな”ありふれた正論”が、誰かを救うだろうか。
少なくとも彼女たちは、被災したお客の心を確実に癒し救っていた。
妻と子を亡くした男性客が、こんなことをしている場合ではないと感じながら
『どうしていいかわからない。人肌に触れないと正気でいられない』
と吐き出した想いを、彼女たち以外に受け止められた人はいただろうか。
そして同じように、彼女たちも仕事をすることで救われたと言っていた。
経済的な面でもそうだが、同じように被災したお客さんと話すこと、そして「ありがとう」と感謝されることで救われたと。
「生」と「性」はつながっている。
今までも、私はぼんやりとそう思っていた。
でもこの本で、まざまざとそれを突き付けられた気がした。
男だとか女だとか、現代ではそんなことを言うのはナンセンス...なのは十分承知。
それでも、あえて言いたい。
女は強い。(#小野一光)
(#小野一光)