第91期生として宝塚歌劇団に入団し、「あうら真輝」の芸名で活動していた元タカラジェンヌの東小雪さんが、自身の半生と実の父からの性虐待をカミングアウトしている作品。
ご両親ともに地元金沢では名の知れた方のようで、誰から見ても幸せそうに見える家族。
一人娘の著者が、宝塚音楽学校へも合格し順風満帆...だと思ったのに。
『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』 感想
本書で最初に驚くことは、宝塚音楽学校の闇。
特殊な環境なので普通の学校とは違う...と言えども、無意味で陰湿なソレが「伝統」とされていることには異常性を感じた。(ファンの方にとっては、知りたくない裏側かもしれない。)
著者は音楽学校を卒業し、宝塚に入団したが嫌がらせなどで精神的に限界がきて退団。
その後も、精神状態はどんどん悪化していく。
著者は幼少期から精神科への通院があったようだが、退団後の病み方は驚くほどで、オーバードーズやリストカットを繰り返し、閉鎖病棟に入院するまでに。
ここまででも、十分にハードな人生だと感じた。
実父からの性的虐待については大人になってから、とある心理カウンセラー(催眠行動療法)によって記憶が呼び起こされていくのだが...その記憶がとても曖昧。
辛い経験から自分を守るためにそういったことはよくあるようだが、本書の様々なレビューなどでは疑問視する声もあがっているのも見た。(結構辛辣な意見もあった。)
実父はすでに亡くなっているし、私には著者の記憶が本物なのか作られたものなのかなど分かりもしない。
そして何より、性被害を訴えている人に「あなたの話は記憶違いなんじゃないの?」などと言うような人間でありたくないので、私は書かれていることを事実として受け止めた。
できれば、母親から話をもっとしっかりと聞けたらいいと思うけれど、母親との関係もあまりよくない。
そういうことも含め、周りから見たら誰もが羨む理想の家族は(少なくともこの著者にとっては)虚像・偽りであるのだが、実はそんな家庭は多いのかもしれないとも思った。
性的虐待は、なかなか表に出にくい犯罪だと思うが、その心の傷は計り知れないと思う。
この本を読み、様々な性的虐待の被害者の告白や裁判記事を読んだのだが、犯人(多くは義父・実父)のあまりの鬼畜さに吐き気すら覚えた。
著者はレズビアンであることを公表し、渋谷区「パートナーシップ証明書」第1号証明書を取得し話題になった。(現在は解消している。)
様々な生きづらさを抱えながらも、居場所を探しながら生きている姿は、素直に応援したいと思った。
誰だってそうだけれど...誰かにどんなに批判されても、結局自分は自分でしか生きていけない。
かっこ悪くても、人と違っても、堂々と生きていいのだ。そんなことを思った。(#
東小雪)