「世界は誰かの仕事でできている」某CMでおなじみの言葉だが、私が大好きな言葉だ。
この世には皆によく知られ憧れられる職業だけでなく、日は当たらないけれど...とても大切な仕事がたくさんある。
その中の1つともいえる「葬送」にかかわるお仕事がこの本の主人公である。
葬送の仕事師たち 感想
100歳を超える祖母を介護している私の母は「こんな風に(祖母のように)なるのが辛いから長生きしたくない」が、最近の口癖になっている。
私は「そうだね~」と返事しつつも....実は死ぬのが怖い。
苦しみや痛みに対する恐怖というよりは、ただただ「死ぬ」ということが怖い。
そして亡くなった人も怖い。
だから自分がその「死者」になるのも怖い。
20年前に祖父が亡くなった時、病院で亡くなった祖父を自宅まで送り、湯灌し白装束を着せてくださった葬儀社の方のことを今でも覚えている。
亡きがらに触れテキパキと進めていく姿を見て、プロは凄い!と心から思った。
でも...お通夜に訪れる親戚や母や祖母も、祖父の顔や手に触れていて驚いた。
みんな怖くないのだろうか?
結局私は怖くて触ることができないまま祖父を見送った。
そんな自分を当時は「薄情な人間だ」と思ったりもした。
でも大人になった今でも、亡くなった人が怖いなんて思っているのだから、若かったあの頃の私が怖いと思ったのはしょうがないかな...と今は思う。
この本は、葬儀社・火葬師・復元師・エンバーバーなど、亡くなった人の弔いをしてくれる方々に取材したルポタージュである。
なので、ところどころの描写はとても生々しい。
だけど、それがリアルなんだと思う。
生きることも死ぬことも、とても生々しいことなんだと改めて思った。
故人を家に運ぶ際に、どうしてもストレッチャーが通れない階段などは、故人をおぶって上がることも珍しいことではないそうだ。
普通の人ではなかなか出来ないであろうことを、故人や遺族のためにしてくださる姿と心意気に、葬送の仕事は究極の接客業だとも思った。
そして私が1番たくさんの人に知ってほしいと思っているのは、エンバーマーを含む「復元師」の方の存在だ。
6年ほど前に「心のおくりびと 東日本大震災 復元納棺師」という本を読んだことがある。
それからしばらくして「ありがとうって 言えたなら」という本で、エンバーミングというものを知り、また衝撃を受けた。
エンバーミングとは、とても簡単に言うと体内に薬剤を注入し、腐敗を遅らせる処置のこと。
このエンバーミングの資格を持っている方をエンバーマーをいうのだが、タレントの壇蜜さんがエンバーマーの資格を持っているという話を聞いて、これまた驚いた。
とにかく、この「復元師」という職業には何度も驚かされている。
長い闘病、事故や災害、様々な理由で死後時間が経ってしまった場合など、どうしても元気だった時の姿と大きく違う姿になってしまう場合もある。
そんなとき、この復元師の仕事によってどれだけの遺族が救われただろうかと思う。
団塊の世代が80歳代になる2027年以降「大量死時代」がやってくると言われている。
2019年の死者数は約137万6千人(ちなみに出生数は約86万4千人)、2030年には161万人、2040年には167万人が亡くなるとされる予想もある。
たくさんの悲しみ、お別れの裏にはこうした葬送の仕事師たちがいて、遺族がしっかりとお別れできるよう支えてくださっていることを忘れないようにしたい。
私はそんな仕事師たちを心から尊敬している。
最後に、本書に出てくる復元師とエンバーマーが別々の場所で、同じことを言っていた。
「自死した人たちに自分たちの仕事現場を見せたら、踏みとどまったかもしれない」
それがとても心に残った。
(#井上理津子)
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