わたし、シーズン2

読書が趣味の40代主婦。きままな読書感想文を中心に日常を綴っています。家族は、夫と娘と元保護犬の愛犬ミィ。

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『どうせカラダが目当てでしょ』あなたの心も体もあなたのもの!そんな当たり前を再認識しました

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なんだかすごいタイトルやん...!とブクログで見つけて読みました。

 

表紙のイラストもかわいいんだけれど...タイトルと相まって、JK娘のいるわたし的には机に置きっぱなしにするのを躊躇してしまいましたw

 

しかしですね、内容はめちゃくちゃ真面目よ!エロなんてないんだから!

 

どうせカラダが目当てでしょ 感想

正直に言っちゃうと...私はなんとなく「フェミニスト」というのが苦手。

 

主張や思想(女性の社会的・政治的・法律的な自己決定権を主張し、性差別からの解放と両性の平等を目指す思想)自体に反論などはないのです。

 

ただ、イメージが...ね。

 

なんだか過激で、人の意見なんて聞かずに男性批判ばかり...みたいな。(ごめんなさい、私の勝手なイメージです。)

 

この本の著者も自分を「フェミニスト」だとおっしゃっておりました。

 

しかし、嫌な感じは全くしませんでした。むしろ爽快。

 

それはきっと、男性に物申す!ということに重点を置いているのではなく

 

「全ての女子へ捧ぐ!あなたの心も体もあなたもののだよ!」

 

というメッセージがとても素敵だったから。

 

身体のパーツをテーマにしたエッセイなんだけれど、自身の飾らないエピソードを織り交ぜながら綴られています。

 

 

著者は私と同い年。

 

私も社会に出たころは「女であること」で嫌な思いをしたこともあります。

 

「若い女は黙って笑っていたらいい」と何度言われたことか。

 

どんなに忙しくても「ちょっとお茶入れて」と1日に何度も言われて、そのたびに仕事を中断する。

 

でも、そうやって「お茶入れて」と言ってくるヤツは、のんびり新聞なんて読みながら私が入れるお茶を待っている。

 

今はきっとそんなことも少なくなってきたのではないのかなぁ...と思います。

 

それは、社会の流れの中で女性だけでなく、男性の意識もちゃんと変わってきたってことなんだろうと思います。

 

「女は産む機械」だなんて言ったクソみたいな思想は、もう全滅したと思いたい。(たぶんまだだと思うけど。早く全滅していただきたい。)

 

 

「お前の人生の主役はお前だ、好きなようにやれ」

 

そんな著者のメッセージに、アラフォーの私でもなんだか元気が出ます。

 

なんだか毎日イライラするわぁー、というお疲れの女子にもお勧めしたい1冊です。(#王谷晶)

 

* この本の感想を書きました *

『一度だけ』変わらない日常の中にあるモヤモヤと小さな希望

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一度だけ 感想

益田ミリさんといえば「すーちゃんシリーズ」やエッセイ、というイメージが強いですがこの本は小説です。

 

益田ミリさんは女子のあるあるや、心の奥にあるちょっぴりダークなつぶやきを表現するのがとても上手だなぁと思っているのですが、それは小説でも同じでした。

 

主人公は、タイプが違う未婚のアラフォー姉妹。

 

そんな姉妹の日常や生き方を描いた小説なのですが、淡々とした日常の中で感じるモヤモヤとか惨めさが、ひりひりしてリアル。

 

年齢や結婚歴が違う姉妹がそれぞれ違うことで悩み、それぞれに頑張ってる姿をなんとなく応援したくなります。

 

多くのアラフォー女性が感じたことがあるだろう感情を、本当に上手に表しています。

 

淡々とした日常のお話ですが、なんとなく希望もある物語です。

 

 

- 心に残ったことば -

 

今読んだものを自分の人生に取り入れ、役立ててみたいと思う。

 

けれど、それは明日でも、一か月後でもなく「いつか」でしかなかった。

 

わたしは永遠のこない「いつか」の中で生き、ひからびて人生を終えるのかもしれない。(#益田ミリ)

 

* この本の感想を書きました *

 

『おとなになるのび太たちへ』自分はなにになりたいのか、 どう生きたいのかを考えるきっかけに

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おとなになるのび太たちへ 感想

私が今の子供たちに対して「羨ましいなぁ~」と思うことの1つとして、幼いころからたくさんの職業を”知る”ことができること。

 

憧れる職業があれば、その職業に就くためにはどうしたらいいかを、ネットで簡単に調べることが出来るなんて、夢のようです。

 

特に子供の頃は、憧れる職業や将来の夢がたくさんあるので、その全てを調べたり、実際にその職業についている人の話したyoutubeで聞けたり最高だなって思います。

 

本書では、eスポーツプレーヤー、声優、YouTuber、俳優、小説家、宇宙飛行士...などなど、子供たちが興味を持つような職業の方々がドラえもんの1話を選び、そのマンガの後に子供たちへのメッセージが綴られています。

 

収録されているドラえもんの漫画も、とても面白い!

 

知っているお話も、知らないお話もありましたが...何十年経っても色褪せないってすごいですよね!

 

そして著名人が子供に語り掛けているページも、各々数ページで短いんだけれど...それが説教臭くなくてとてもよいです。

 

自分の経験を元にしているため説得力もあるし、エールもある。

 

私は辻村深月さんの章がとても好きでした。

 

 

小学校高学年~高校生くらいの10代にはもちろんおすすめなのですが、(小学校低学年でも理解できる子もいるかもしれないけど、フリガナがほぼないので読んであげないと難しいかも。)夢を追う20代の人にも、とってもおすすめ。

 

いや...昔のび太だった大人へにもおすすめの1冊です。(#藤子・ F・不二雄)

 

* この本の感想を書きました *

『母を捨てるということ』依存症に陥った母と愛されたかった娘の40年の記録

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ワイドショーのコメンテーターなどでも知られている医師、おおたわ史絵さんの著書です。

 

私はこの世代で医師をしている女性はみな、恵まれた家庭で育ったと勝手に思っていました。(父親は開業医なので、経済的には恵まれているとは思います。)

 

でも、ネット記事でおおたわ史絵さんの実母が薬物中毒で、とても大変だったことを知りました。

 

この本は、そんな実母の薬物中毒と闘った壮絶な記録です。

 

母を捨てるということ 感想

おおたわさんの幼少期のお話は、特に苦しくなります。

 

幼いおおたわさんに母親が行っていたことは立派な虐待だと思いますが、本人は「よそのお母さんを知らなかったから、虐待だとは思っていなかった」と書かれていました。

 

そういうものなのか...と驚くと同時に、いかに子供にとって「自分の親」や「自分の家庭」が世界の全てで、大切なのかを思い知らされました。

 

 

 

そして、おおたわさんの母親は「オピオイド」という鎮痛剤の薬物中毒になります。

 

オピオイドとは、合法の麻薬性鎮痛薬。

 

とても強い鎮痛作用があり、手術後の痛みや末期がんの痛みなどに使用されます。

 

この薬物中毒になってしまったのは、父親が医師だったため容易に処方してしまったことがとても大きい理由だったと思います。

 

配偶者が目の前で「痛い、痛い」と言っているのを見るのが辛く、常用させてしまったのだと思いますが...医師という仕事柄、忙しさに追われて妻とちゃんと向き合えなかった(向き合わなかった)のが最大の過ちなのかなと思います。

 

全てのエピソードがとにかく衝撃的で、母親は薬物依存から買い物依存症になっていくのですが、そのエピソードも普通の人には理解不能。(父親が危篤の時も付き添わず、TVショッピングに勤しむなど...)

 

ただ、そんなすべてのエピソードが依存症という病の恐ろしさを物語っていると思いました。

 

 

 

最近では「依存症は病気」ということが広く知られるようになりました。

 

それでも私は心のどこかで「とはいえ、心の弱さもあるのでは?」と思っていました。

 

でも、この本を読んで依存症になる人は他の精神疾患や病気を抱えていることも多く、やはり「心の弱さ」や「甘え」ではなく「病気」なんだなと再認識しました。(後半部分は、依存症とは何かとか依存症との向き合い方が書かれています。)

 

 

おおたわさんが早く死んでほしいと心から願った母もまた、心に傷がありました。

 

負の連鎖にならぬよう、おおたわさんがしっかりと生きてきたことは本当に素晴らしいことだと思います。

 

壮絶な過去を赤裸々に、本当に赤裸々に描かれている本でした。(#おおたわ史絵)

 

* この本の感想を書きました *

(#おおたわ史絵)

『息子が人を殺しました』ある日突然家族が加害者になったら...?

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先日銀行に行った時に、指名手配犯がたくさん載っているポスターを見ました。

 

罪名は「強盗」「殺人」「強盗殺人」...などなど凶悪犯ばかり。

 

そのポスターを見ながら「もし、自分や家族がこのような犯罪に巻き込まれたらどうしよう...」と怖くなりました。

 

そう、いつも想像するのは”被害者”になること。

 

自分や自分の家族が加害者になるなんてことは、考えることはありません。

 

そんなことを思っているときに、本屋さんでタイトルに惹かれて買いました。

 

買う前は、事件の加害者の親の手記だと思っていたのですが...

 

実際は日本で初めて加害者家族支援のNPO法人を立ち上げた著者による「加害者家族の実態」です。

息子が人を殺しました 感想

ニュースで毎日のように目にする重大事件。

 

事件が酷いほど、その加害者の人格が異常なほど...

 

その加害者の親はどんな人間なのか?どんな教育をしたらこんな子供に育つのか?と思ったことはありませんか?

 

私はいつも思います。

 

そして、やはり家族(ほとんどの場合は親)や、生育状況に問題があるケースも多いため、私は加害者家族に世間の目が向くのは、ある程度しょうがないと思っています。(とはいえ、誹謗中傷してもいいとは思っていません。)

 

しかし、その加害者家族がどうのような生活を送っているかなどは考えたことはありませんでした。

 

本書には、そのような加害者家族の事例がいくつも載っています。

 

 

現在ではインターネットの発達により、簡単に加害者家族の情報が拡散されてしまいます。

 

その中には本当のこともあれば、全くのデマもあるでしょう。

 

でも、事件が酷いほどその情報は拡散され「加害者家族も加害者の一部」のような感覚になってしまいます。

 

でも、加害者家族は「加害者」ではないんですよね。

 

 

特にかわいそうだと思ったのは、加害者の子供や兄弟。

 

家族が起こした事件を境に、本当に人生が一変してしまい...通っていた学校にも通えなくなり、将来の夢や希望も全て奪われてしまいます。

 

本書には載っていませんが...秋葉原無差別殺傷事件の犯人、加藤智大の弟さんが自殺したことは胸が痛みました。

 

職を追われ、家を追われ、婚約者の親に結婚を反対され別れ...そして自殺。

 

自分が知らないだけで、こういうことはたくさん起こっているのかもしれないなと思いました。

 

 

そして、私がハッとさせられたことは、加害者家族への誹謗中傷や社会的制裁は、犯罪抑止にはつながらないということ。

 

「普通の家庭」で育っていれば「家族に迷惑をかけるから」というのが最大の犯罪抑止力につながるかもしれません。

 

でも、実際に犯罪を犯してしまう人たちが育ったのは「機能不全家族」であることが多い。

 

だから、自分が捕まった後に家族がどのような目に遭おうとも関係ない、と思っている加害者も少なくないそうです。

 

機能不全家族とは、家庭内で弱い立場にある人に対して、身体的または精神的ダメージを与える機会が日常的に存在している家族状態のことをいいます。(例えば、虐待やネグレクト、家族同士の不仲による対立や生活貧困、子どもに対する過剰な期待など。)

 

家族は当たり前に仲が良く、強い絆で結ばれている...というのは全然当たり前ではなくて、悲しいけれど無条件に子供を愛せる親ばかりではありません。

 

虐待などから子供たちを守っていくためにも、事件の犠牲を無駄にしないためにも...

 

加害者家族をただ責めるのではなく、その事例をしっかり検証し、事件の加害者はどのような家庭で育ち、親はどのように育てたのか、そこにどのような問題点があったのかをちゃんと見つけ出し、再発防止にしっかりと役立てて欲しいと心から思います。

 

 

本書を読み、著者が行っているような「加害者家族の支援」という活動は大切なことだとは思いました。

 

ただ...私はどうしても被害者側を1番に考えるし、今後もきっとそうだと思います。

 

日本では被害者や被害者家族に対しての支援さえも全然不十分だと思います。

 

まずは、もっともっとしっかりと被害者(被害者家族)への支援・凶悪事件の厳罰化をしっかりとして欲しいなと思います。(#阿部恭子)

 

* この本の感想を書きました *

 

▼著者が代表を務めるWorldOpenHeart▼

 

worldopenheart.com

『1ミリの後悔もない、はずがない』私にとって間違いなく心に残る1冊

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五編の作品による連作短編。

1話目の物語「西国疾走少女」は、2016年に第15回女による女のためのRー18文学賞読者賞受賞作です。

 

故に性描写が多めになっています...が、決してエロ”とは言ってほしくない。生々しくリアルなのですが、なぜか切ないそれなのです。

 

『1ミリの後悔もない、はずがない』感想

主人公の少女と、その想い人を軸に時間が進み、様々な人の視点で語られる連作短編。

 

とにかく冒頭で心をつかまれる。なんなんだ、この人は。作者に対して素直にそう思った。

 

そして、読み進めている間に何度も思う「本当になんなんだ、この人は。」と。

 

 

1話目、頭の中に再生される映像はモノクロだった。

 

心がギューっとなる。

 

それは甘酸っぱい恋心...だけでなく、私が思春期に大人に対して感じた感情や想いを大人になった私に、とてもストレートに投げつけられたような気がしたから。

 

 

とにかくズキズキとした痛みを感じる作品だった。

 

それは、まるでアスファルトでこけて擦りむいた傷の痛み。

 

でこぼこしたアスファルトで削られてギザギザになったその膝は、いつまでもズキズキと痛む。

 

しかし、読み終わるとちゃんとその傷はかさぶたになっている。

 

ラストは何とも言えない切ない気持ちと、大人なんて一切信じないと決めた少女にも信じられる大人がいた安堵で、気づいたらページが滲んでいた。

 

 

昔少女だった、今を生きる大人の女性に全力でおすすめしたい1冊。(#一木けい)

 

* この本の感想を書きました *

 

『あの人は蜘蛛を潰せない』人の弱さもずるさも優しさも、余さず掬う物語

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あの人は蜘蛛を潰せない 感想

登場人物は不器用な人たち。

 

...でも、生きるのに不器用じゃない人ってどれくらいいるんだろう。

 

そう考えると、登場人物はみな「普通の人」。

 

大きく大きく括ると恋愛小説になるのかもしれないけれど、主人公の根本にあるのは母親との関係。

 

昨今「毒親」と言う言葉を聞く機会が多くなったけれど、これに出てくる母親は「毒親」とは言い切れない。

 

でも過干渉で、母親のたくさんの言葉が娘を縛り付ける。(それを毒親というの...か?)

 

とはいえ、母親に同情する部分もある。

 

人はみな、何かしらを背負って生きているということだと思う。

 

 

物語は大した事件も起こらない日常が淡々と続く。だけどそれがリアルでその時々の主人公の行動や言葉がひりひりする。

 

「かわいそう」はとても厄介だ。

 

「かわいそう」はずるい

 

「かわいそう」は縛り付け

 

「かわいそう」はラクチンで

 

「かわいそう」は傷つける。

 

そして...人は誰かを「かわいそう」と思うことで、自分を1つ上に置くのではないかとも思う。

 

 

この物語では「さざんか」が随所に出てくるのだけれど、よく似た花で椿がある。

 

さざんかと椿の違いはいくつかあるが、椿は花ごとボトッと落ち、さざんかはハラハラと花弁が散る。

 

そして椿は香りが少なく、さざんかは強い香りがある。

 

2つの花の違いを感じながら...だから椿ではなく、さざんかなのかなと思った。

 

 

私を含め母親に対して、言葉にしにくい感情を抱いている娘というのは多いのではないかと思う。

 

決して毒親ではない母に対する、言葉にしがたい感情。

 

だからこういう母と娘を描いた本を読むと救われる部分もある。

 

でも同時に自分が「母親」になってからは、少し怖くなる。

 

自分も子を想うあまり、知らず知らずに子を縛っていたらどうしよう...と。

 

 

 

彩瀬まるさんは、私の好きな作家さんの1人なのだけれど、とにかく表現が豊かです。

 

人間の心の闇や、ドロドロで生臭いものを、醜く生々しく...とても美しく描きます。

 

そして、私が誰にも見せずに心の奥にそっとしまっている「自分を形成している大切な何か」をズドンとピンポイントで突いてくる...そんな作家さんです。 

 

椎名林檎さんの帯、巻末の山本文緒さんの解説も作品を彩っている一部のようで、とてもよかったです。(#彩瀬まる)

 

* この本の感想を書きました *

『ビタミンF』「F」がキーワードの7つの家族の物語

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第124回(2000年)直木賞受賞作です。

 

2002年にNHKBSにてドラマ化もされたそうです。 (Wikipediaでキャストを見てみましたが、原作のイメージに合うキャストだと思いました。)

ビタミンF 感想

「炭水化物やタンパク質やカルシウムのような小説があるのなら、ひとの心にビタミンのようにはたらく小説があったっていい。」という思いが込められた短編集です。

 

Family(家族)、Father(父親)、Friend(友達)、Fight(戦う)、Fragile(脆い)、Fortune(運)...「F」がキーワードの7つの家族の物語です。

 

 

文庫帯の「涙腺キラー・重松清の最泣の一冊 100%涙腺崩壊!」が目に入り、書店で手に取りました。

 

そして1話目の物語を読み終えた私は...「まずい、チョイスを間違えたかもしれない」と思うのです。

 

そして4話目を読み終わって「もう読むのやめようかな...」と思うのです。

 

舞台は2000年くらい、そして主人公もアラフォー。

 

その時代のことは知っている、そして主人公は今の私と同年代...感情移入できる材料は揃っているはずなのに、全くできない。

 

いや、むしろちょっとだけイラっとする。

 

なぜだ?

 

100%涙腺崩壊!と書かれているのに私は泣けないどころか、なぜイラっとしているのだ?

 

心を落ち着けるために、Amazonのレビューをちょっとだけ覗く。

 

全体評価★4つ。

 

うそうそ、みんな高評価じゃん!と余計パニックに陥るのでした。

 

 

とりあえず、最後まで読もうと5話目「なぎさホテルにて」を読み始め...

 

見事にバズーカーで胸を撃ち抜かれていたのでありました。

 

そして、私は気づくのです。

 

なぜ、前半の物語でイラっとしたか。

 

全ての主人公は40歳前後の父親なのですが、私は前半のお話を同年代であるはずの親目線ではなく「子供の立場」で読んでいたのです。

 

だからこそ...悪あがきするような、自分の正義を振りかざすような父親の姿に思春期の子供目線である私はイラついたわけです。

 

 

しかし、5話目「なぎさホテルにて」で急に私は妻(母親)の立場になりました。

 

夫婦仲が悪くなり、家族が壊れてしまいそうな状況が描かれているのですが...それが6年程前の自分に重なり、胸が苦しくなりました。

 

主人公の父親は、特に不満もない平凡な日常の中で不意に「俺の人生は、これか ー。」と思い、妻に冷たく接します。

 

「わたし、なにかあなたの気に入らないようなことした?」と時に涙ながらに何度も聞く妻に「直す、直さない、好き、嫌いとかじゃない」みたいなことを言います。

 

妻が悪いわけでもない、妻が嫌いになったわけでもない、これというきっかけがあったわけでもないが、妻に嫌悪感を感じる主人公の男。

 

重松清は、我が家の話を書いたのか?

 

これは、6年前のうちの夫の話なのか?と思うほどでした。

 

ということは、割とよくある話...というかアラフォー男にとって、こういう気持ちや状況になることは珍しいことではないのかな?

 

物語の夫婦がその後に離婚したのか、しなかったのかは分かりませんが...少し希望のある終わり方でした。(ちなみに私たち夫婦は、以前よりも夫婦円満に仲良く暮らしています。)

 

ほんの少しのことでズレ始め、ほんの少しのことでそっと寄り添うこともできる。

 

でも他人だから、結構簡単に背を向けて歩き始めることもできる。

 

ときめきや新鮮さと共に思いやることを失い、"普通の日常"になってしまったパートナーを鬱陶しく思う。

 

そんな”夫婦”と言うものを何とも生々しく書いている作品でした。

 

この「なぎさホテルにて」を含む後半3話は、心地よく読むことが出来ました。

 

 

そして最後まで読んで気づくのです。

 

まんまと重松清ワールドに引きずり込まれたな、と。

 

前半4話で私がイラっとしたのも、後半3話を心地よく読めたのも...描かれているのが、ただ普通のごくありふれた日常。

 

だからこそ、自分が様々な立場に立ち、気づけば物語の中に入り込んでいました。

 

 

家族や夫婦がキラキラして愛おしいばかりの存在から、”あたりまえ”になり時に億劫にさえ感じてしまう。そしてもう自分がそんなに若くないことを実感する...

 

この本はきっと、そんな人生の中盤に差し掛かかった人たちへのエール。

 

「がんばれ」なんて一言も書いていないけれど、「あなただけじゃない」というエールなんだと思います。(#重松清)

 

* この本の感想を書きました *

『大切な人が死ぬとき』緩和ケアナースに話を聞いて、心に残った罪悪感を整理していく物語

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著者自身がお父さんを亡くした後、緩和ケアナースから話を聞きながら、胸に残る後悔や罪悪感を受け入れていく物語(コミックエッセイ)です。

大切な人が死ぬとき 感想

人は誰だっていつか死ぬ。

 

頭で分かっていても...自分や、自分の大切な人が死ぬことについて、日常では特に意識しません。

 

だからこそ、私は定期的に死を意識する本を読みます。

 

 

著者は膵臓癌でお父さんを亡くすのですが、実体験なだけにその様子や心の葛藤がとてもリアルです。

 

お父さんを見送った後、緩和ケアを担当している看護師から終末期の患者さんを見送った話や想いを聞き、自分の後悔や罪悪感と向き合っていきます。

 

旅立つ人も、見送る人も...それぞれに葛藤や後悔や悲しみを抱えている。

 

見送った人は時間をかけて後悔や悲しみや罪悪感と向き合って、大切な人の死を受け入れていくんだろうと思います。

 

  

しかし現在のようなコロナ禍では、今までみたいな看取りが難しい場合も多いと思います。

 

思うようなお別れが出来ない場合は、苦しみや悲しみや後悔は大きく、長く引きずってしまうのではないかと心配します。

 

だからこそ、日々の生活の中で大切な人に感謝や想いを伝えることをしっかりと意識したいと思います。

 

大切な人を見送る前の方、見送った後の人、まさに今そんな場面に直面している方、そして看護師を目指している方にもおすすめの1冊です。

 

 

大切な人が死に直面した時に大切にしたいこと...

 

それは、大切な人が残された時間を「どう生きたいか」を知ること。(#水谷緑)

 

* この本の感想を書きました *

 

 

『花に眩(くら)む』艶やかな表現と”美しく朽ちてゆく”ということに心をつかまれる

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第9回 女による女のためのRー18文学賞読者賞受賞作。彩瀬まるさんのデビュー作です。

 

現時点では電子書籍しかありません。(小説新潮2010の6月号に収録されています。)

 

私はkindleで購入し、スマホのkindleアプリで読みました。短編小説なのですぐに読めます。

花に眩む 感想

登場人物は 3人。主人公 ”はな” と ”しま” ・ ”高臣さん”。

 

それぞれの肌には、それぞれの花が咲く。

 

それは美しく華やかなものではなく、とても素朴な花だ。

 

遺伝子とともに受け継がれるその植物は人間の肉に根を張り、その個体の免疫力を上げて共生し、年月とともに根を深め...やがて心臓に浸食を果たしその個体を殺す。

 

それは残酷でも物騒なことでもなく、彼女たちの老化であり死なのである。

 

少し不思議な物語なのだけれど、違和感なく読み進めることが出来る。

 

そして、少し切なくとても美しい。

 

肌から生える植物の芽をぷつぷつと抜く描写はとてもリアルで、自分が抜いているような錯覚さえ起こしてしまった。

 

 

私も若い頃は、よく自分の腕に生えた毛をぷつぷつと抜いていた。

 

別に毛が許せなかったわけではなく...ぷつぷつと抜くときの”チクリ”とした痛みが少し心地よかったからだ。

 

チクリとした痛みは、若かりし頃のわたしに生きていることを改めて感じさせてくれるような気がしていた。

 

 

主人公はなが生きている世界でも、今わたしが生きているこの世界でも...

 

みな、どこか寂しさや満たされないものを抱えて生きている。

 

* この本の感想を書きました *